自己肯定感

1.はじめに

昨年の暮れ、ゲノム編集された双子の赤ちゃんが誕生しました。DNAはその人の体格、性格、能力などの資質を書いた設計図であると言われています。ヒト受精卵は一個の細胞であり、そのDNAに変更を加えられた人は、その存在を原点で否定され、自己肯定感を持てなくなることはないでしょうか。自己肯定感は人が生きることのべースであり、互いに尊重し合うことが社会の基礎ルールであるとき、病気治療に限定するとしても、核兵器の轍を踏まないためにも、ヒト受精卵の遺伝子操作に慎重過ぎることはないと考えます。また、自己肯定感を持てなくてテロやヘイトクライムに走る若者が世界で増えているように感じたので、自己肯定感について考えてみました。

2.自己肯定感

人の資質は生まれたときから差があります。この差が多様性や変化をもたらし、人類を存在させる創造主の意思と想像します。そして、自己肯定感は、各人がこの差を受入れ、自分の現在の状態を素直な気持ちで把握した上で、自分の現在と将来の存在に意義を感じることだと思います。

2.1 価値観と自己肯定感

人は、自分の価値観をその興味、能力、環境など現在の状態に応じて形成し、それを具現化するために、創造力、努力などその持てる能力を駆使し、些かな成果と自分の進歩を見出したときに、生きる喜びを感じるように思います。

この自分の価値観を形成し具現化する土台が自己肯定感ではないでしょうか。そして、自分の価値観に基づいて目標を設定し、その目標を達成する過程と結果に喜びを感じることを繰り返すうちに自己肯定感を強めていく気がします。

自己肯定感が弱いと、自分の現状を正確に把握することができず、正しい自分の価値観を形成することができません。また、その価値観に基づいて目標を設定したとしても、その目標達成の努力中に小さい困難に会っただけで、設定した目標や努力に迷いを感じ、目標達成を挫折してしまいます。

逆に、自己肯定感が強すぎると、独りよがり、向上心の拒否、自身喪失に繋がり、自分の正しい現状把握ができず目標設定を誤り、場合によっては攻撃の矛先を他人に向けて、いじめ、人種差別などの要因になります。いじめは、被害者の自己肯定感をズタズタにする精神的な殺人であり、加害者もその自己肯定感の歪みを露呈して自分を精神的に殺す二重殺人のようなものです

2.2 自己肯定感を大切にする社会

昨今、記憶力、思考力については、ビッグデータやAIに置き換え可能な領域が増大しています。こんな時代に対応するためにも、人が存在し続けるエネルギーになる「生きることに喜びを感じる」感性を大切にする社会を作ることが求められている気がします。

大好きなことを見つけてそれに集中している人の自己肯定感は強いです。しかし、何かを模索している人の自己肯定感は脆いものです。小さな失敗、他人の批判などによって揺らぎます。人の興味、行いたいことは様々であり、その肯定感の拠り所も千差満別です。従って、資質の異なる多くの人が適切な自己肯定感を持てるように努力し、協力し合い、また、他人の自己肯定感を尊重し、損なわないようにすることが大切だと思います。

人は集団行動動物ですので、他人のために役に立ちたい、他人に認められたいとのゲノム情報がDNAに記録されているようです。従って、他人から褒められると存在を認められたと思い、自己肯定感が強くなり、逆に、他人から批判されると存在を否定されたと感じ自己肯定感が弱くなります。日本では他人をあまり褒めないので、日本人の自己肯定感は弱いと言われています。他人の良いところを褒める習慣を作って皆が生きる喜びを感じる社会を実現したいものです。しかし、誇張した褒め言葉、おべっか、忖度は、相手に強すぎる自己肯定感を持たせることになり、多くの人に迷惑を掛ける可能性があるので注意が必要です。

また、若い人が、その能力を正確に把握するための参考意見を親身になって考え、その人が現在の状態を素直な気持ちで把握して適切な自己肯定感を持つことに協力できる雰囲気が望まれます。

3.おわりに

ビッグデータやAIによって人間の能力の価値が相対的に低下し、SNSなどによって多人数間で情報の共有化が容易になった社会において、適切な自己肯定感を持つことが難しくなってきました。それに対応するために、自己肯定感を大切にする社会の実現、正しい自己肯定感を持つことの大切さを幼少時に教えることが重要と思います。また、「何のために生きるのか」などの哲学的なことを子供の頃から自分の頭で考える社会環境が必要ではないでしょか。