1.はじめに
地域紛争、歴史に学ばない大国の覇権争い、格差社会、宗教・民族対立、弱者虐待、など世界には、人の無知、弱さ、自己過信を根源とする不幸が渦巻いています。これは人類が創造主から賜った「各自が頭の中に築いた概念の世界を言葉で共有するという概念共有能力を誤って使っている結果のように思います。
一人では弱いホモ・サピエンスが概念共有能力を使って協力し地球上で最大勢力となったとき、その概念共有能力で自らを種々の集団に分別し、我が集団の価値観が正しいと、利己的利益追求に概念共有能力を誤用し、多くの不幸を生み出している気がします。
この概念共有能力を本来の「皆が人生を楽しむための力」として使うためには、特に、自分の頭で考える必要性が少なくなったデジタル化社会においては、幼少時からその正しい使い方を教えられ、各人がそのよい面と悪い面とを認識し、常に自らで考えることを意識しつつ概念共有能力を活用することが必要であると考えます。
人間以外にも集団を作る動物はいますが、これらは食べ物を得るなどの生きるために必要な範囲でのみ排他的になり、人間のように共有する概念の世界で集団を排他的に形成し、強力な概念共有能力を誤用して全滅するまで利己的利益を追求する冒涜者はおりません。
2.デジタル化社会の弊害
デジタル化社会は、人類が概念共有能力を使って創造した便利な道具ですが、本来人間が持っている能力を退化させるという大きなマイナス面を持っていることを強く認識する必要があると思います。
その一つは、人が「自ら考えること」を放棄し、「検索」して得た情報を自らが考えたことであると錯覚することではないでしょうか。ウエブサイトには正しいと思える回答が用意されており、人はその回答に賛同すると、それを自らのものとし自分の概念社会の一部に組み込み、その回答に賛同する人々の間に排他的な同質意識が生じます。
さらに、人々の思考停止が進むと、ワープロの使用で漢字を忘れるのと同じように、感性や観察力が低下し、人や物の個性のアナログ的な微妙な違いが識別できなくなり、デジタル的に区分したラベルを貼って個性の違いを認識しているつもりになります。この傾向はデジタル化社会が進むにつれて一層深刻になります。
3.若い時から共有したい生き方
概念共有能力は、自爆テロ、特攻隊などのような間違った価値観も刷り込まれるという負の面を備えています。少なくとも次に述べる人生を有意義に過ごすための生き方は、間違った価値観を刷り込まれることもなく、人生を充実して楽しく生きるために有効であると考えます。従って、このような生き方を若い時から共有するために、家庭、学校、社会で話し合い、伝承することは、より多くの人が充実した人生を楽しく過ごすことができる平和な社会を作るために有意義であると考えます。
3-1 人は、言葉(数字、記号も言葉に含まれる)を使って約束事(言葉も約束事)を決めることによって、各自の頭の中に無限に拡大可能な概念の世界を構築することができ、その概念の世界を言葉で共有する能力(概念共有能力)を授かっていること。
3-2 生きることは、自分の欲求に基づいて設定した目標を達成する過程と結果のセットで喜びを感じること。
目標達成過程での努力や工夫不足で結果が伴わなかったとき、嘘などをついて結果だけ達成したときなどに喜びはありません。嘘が悪いのは結果のみを求めるものであり、本人の真の喜びに繋がらないものだからでしょう。 しかし、非常に悔しく悲して喜びを伴わない結果であっても、必死に工夫し考えて努力した上での結果であれば、創造主の目的には叶ったものと思います。
理想の目標に向かう道程に沿って時々の自分の目標を立て、それに向かう努力の結果として達成感を味わうことの積み重ねの中で、大きな目標を達成できれば望外の喜びとなるのではないでしょうか。
3-3 自分が自由を望むのと同様に他人も自由を望むことを認めることが基本ルールであること。同様に、他人の痛み、悲しみの分かる子供に育って欲しいものです。
人はそれぞれ個性があり、能力、興味、行いたいことが異なります。これらの相異を互いに認め合い、各自が自由に個性を発揮する中で協力して共通目的を達成すると喜びも大きくなります。
3-4 人は弱いものであることを自覚して行動を戒めること。
自分の欲求、能力、立場などに基づいて自分の価値感を築き、その価値観に基づく目標に向かって行動するのが原則ですが、これを常に実行するには、かなり強い自己肯定感を備える必要があります。
失敗したときなど自信を無くし、他人の賛同、後押しが欲しくなるものです。しかし、この他人の賛同、共感は己の目標を努力して達成した結果に対する賞賛であって、他人の賞賛を目標として努力するものではありません。この点、共同作業は多くの人が目標を共有するので、肯定感が強くなり安心して行動できます。
3-5 人生は長いようで短いこと。
多くのことを学び、自分の能力を十分使ってより大きい目標を達成すると、より大きな喜びとなります。失敗することも学ぶことの一つです。大きな目標達成は、小さな目標達成の積み重ねの先にあります。これらを一生の間に楽しみながら充実して実践するには、時間を無駄にする余裕は無いでしょう。
4.おわりに
第二次世界大戦が終わって未だ100年が経過していない時期に、ナショナリズムが台頭し、大国がそれぞれの同盟国を囲い込もうと画策しています。デジタル社会の弊害は、英国のブレグジット選挙、米国の大統領選挙などに見られるように世界的な問題であります。
このようなときこそ、弱い人間が力を得て傲慢にならず、思いやりを忘れないために、パスカルの「人間はひとくきの葦にすぎない。自然の中で 最も弱いものである。だが、それは考える葦である」を、もう一度考える必要があると思います。