国民に楽しく生きる環境を提供する国家

先般行われた米中外交トップ会談において、米国側が新疆ウイグル自治区や香港の人権問題を議論したいとしたのに対し、楊政治局委員が「アメリカの人権問題は根深い。この4年の間に浮上したものではなく、黒人への殺りくは昔からある。他国に矛先を向けるべきではない」と反論し、ブリンケン国務長官が「アメリカは国内ではより完全な団結を目指し、不完全さや過ちを認め、開放的に透明性をもって立ち向かってきた。課題から目を背けたり、存在しないように装ったり、隠したりしない」と応酬しました。

両者の応酬に刺激されて個人と社会あるいは国民と国家の関係について、もう一度考えました。

人間の利己性

17世紀のホッブスは、「ヒトはヒトに対してオオカミである。」と比喩し、人間は、本来的に他人の利益より自分の利益を優先させる利己的な存在であるとしています。

創造主は、「無」の対極の「有」である「存在すること」を「身体」と「心」と「知能」で現出することを人間に託されたとすると、人間は先ず身体的に生きることを遺伝子に組み込まれ、自分が行き続けることを最優先するのでしょう。母親が命がけで子を守る行為も自分の遺伝子を繋ぐためとも言われています。

「心」の面でも、自己愛を備えているだけでなく、己の能力や興味に基づいて自らが設定した目標を達成したときに実感する存在意義や喜びを個として生き続けるための糧にしていると思います。

人間の社会性

18世紀のアダム・スミスは、人間は生まれつき社会的であって、他人を喜ばせたい、不快にしたくないとの欲求を有するとしました。

19世紀に、進化論のダーウィンは、人は社会的存在であり、孤独を嫌い、家族の枠を越えて他人との交流を望むものであると述べています。

創造主は、「有」をより強く感受するために、人間が活力のある大きい変化を具現化することを期待し、「心」に社会性を組み込まれたと想像します。

これにより、人間は所属する集団や仲間の役に立ちたいとの価値観を遺伝子に刷り込まれ、集団や仲間の目標に向かって仲間と協力することに大きな喜びを感じるのでしょう。

しかし、人間の社会性本能は、自分が属する集団や友好関係にある集団内では「生きる喜び」の具現化にプラスに働きますが、利害が衝突する集団には及ばず、逆に衝突を激化させるように働くというマイナス面もあります。

人間の存在意義

創造主が、集団を組んで又は組まずに棲息する多種類の動物に加えて、脳内に自分の概念の世界と価値観を自由に構築する人間を宇宙に送り出されたのは、各個人が多様性のある個性に基づいて「生きる喜び」を具現化し「有」を創造主とともに共感するためだと想像します。

「生きる喜び」を具現化するために、目標設定、実現努力、目標達成のサイクルを繰り返しますが、好きなことといえども目標を達成するためには、怠惰、傲慢などの心的な利己性、独占、貪欲などの身体的な利己性を克服しなければなりません。

そして、目標達成に伴って皮肉にも利己性も大きくなりますが、次回は、より大きい努力でより大きい目標を達成することになり、このように人は成長し、より強く、「生きる喜び」を創造主と共に実感するのでしょう。

国民と国家の関係

人間は、生きるために「身体」と「心」に利己性を備えますが、「心」に社会性も組み込まれており、集団で行動すること及びルールによって利害衝突を解決することが大きい利益に繋がるとの経験から社会ひいては国家を形成したと言われています。

したがって、国民が認めた範囲において国家の規則に従うことは本来の姿でありますが、規則に従わない者が出てくるので、規則の遵守を強制するために権力が必要になります。

しかし、国家の決めた規則が国家を構成する特定の集団の価値観に偏向し、他の集団の人々の生命や尊厳を否定するために権力を行使する国家は、創造主が活力ある大きい変化の具現化を期待して人の「心」に組み込まれた社会性を発露できる国家ではありません。

中国について

一集団である共産党の価値観が絶対的であって、ウイグル人や香港人の生命や尊厳を蹂躙する中国は、創造主が期待された集団ではありません。

戦乱を通して権力を手中にした共産党が、国内での権力闘争に勝利して建国した一党独裁国家をその権力で維持することは、戦乱時の権力を平和時に、権力志向に陥った共産党が未だに行使している国家です。勿論、自分の立てた目標に向かって努力し、自分の存在意義を感じている中国人も大勢いると思いますが、今の中国は、国民に広く「生きる喜び」を具現化するための場を提供するものではありません。

コロナ感染対策を強力に推進し、他国に比して高い経済成長を実現できた所以は、種々の人権問題が存在しないように国内外で装ったり、隠したりするなど国民の自由と権利を制限して集団の力を強め、多くの国民の「存在すること」を創造主とともに共感する喜びを犠牲にした結果であると思います。

アメリカについて

アメリカも人種問題や過大な貧富格差など多くの課題を抱えており、国民は望めば誰もが自分の価値観を実現するために努力できる状態にあるとは思いません。

しかし、大人になっても自己中心性を克服できていないトランプ大統領の再選を阻止し、国内に存在する不完全さや過ちを認め、開放的に透明性をもって立ち向かうと言うアメリカの努力に期待したいものです。

日本について

民主主義と経済を両立させたい日本は、米国と中国の狭間で苦悩しています。

経済格差、ジェンダー格差、働き方改革、グリーン社会の実現など多くの国内課題を解決し、大多数の日本人が幸せに生きていることを世界に示すとともに、貧困国への支援、温暖化防止の技術開発、技術支援、文化交流などを積極的に行い、日本は人間の社会性のプラス面を世界に展開する集団であることを広くアピールし、世界の平和に貢献したいものです。

このような国の人徳ある指導者の発言に耳を傾けない国と決別しても国民は清貧に耐えると思います。

民主主義、資本主義の見直しが必要な時期にきており、与野党や学者が現在の問題点を洗い出し、日本発の修正民主主義、修正資本主義を構想するプロジェクトを国として立ち上げる必要があると思います。