市民による市民のための政府

現在、市民が幸せな日常生活を営む社会を築くための市民による政府が世界各国で後退しているのは何故でしょうか。

南北戦争を開戦したリンカーン大統領は、「人民の、人民による、人民のための政府は不滅である。」と戦中の1863年に演説し、アメリカ合衆国が拠って立つ自由と平等の原則を表現しました。

市民のための政府の後退は、「市民による」の弱体化に起因するところが大きいような気がします。

福沢諭吉は、1872年の「学問のすすめ」で「身も独立し、家も独立し、天下国家も独立するために、誰もが人間普通日用に近き実学を学ぶべきである。」と述べています。

市民が農業、工業、商業などの実学をしっかり学ぶと、各人が独立し、家庭も安定し、よい政治家を選出することができ、市民のための政府を築くことができると解釈しました。

しかし、日本において与党の自民党は、市民の生活苦を解消するどころか、パーティー券を巡る裏金問題で立証の可否はさておき実質的な法律違反を定常化してきました。

多くの日本市民が実学を机上で学ぶだけで、内在する個の原点である独立心を肌で学ぶことを怠ってきたせいでしょうか、同質性と現状維持を望み大勢に従って選んできた政治家が市民のためではなく、自分と利害を同じくする小集団のための政治を行ってきたことの帰結のような気がします。

アメリカにおいては、独裁志向のトランプ氏が本年大統領選挙の共和党候補に有力視されています。

世論力学(オピニオンダイナミクス)理論の第一人者である高知工科大学の全卓樹教授とフランス・国立科学研究センターのセルジュ・ガラム博士が2020年に共同で発表した論文によると、自分の意見を譲らない「確信者」と、他人の意見に影響を受ける「浮動票者」を想定し、集団全体の意見の変遷を数値の変化で捉えるシミュレーションにおいて、確信者の数を25~30%超まで増やした途端に浮動票者全員が確信者の意見に転じたとのことです。

共和党のトランプ岩盤支持層の間でこのような現象が起きていると想像します。共和党全体に伝染しないことを祈ります。

イスラエルにおいても、汚職で退陣したネタ二ヤフ氏が、岩盤支持党であるリクードを中心とする連立で首相に再選されました。

パレスチナとの和平交渉の決裂、衝突や暴力の応酬が続くなか、支持率が25%程度であったリクードの意見が独裁色の濃いエタニヤフ政権を誕生させ、市民のためではなくシオニズム集団のための戦争を過剰に激化継続させています。

ロシア、中国、北朝鮮などの独裁体制国家では、市民のためではなく独裁者の野望のための政治が行われています。

市民が育っておらず抑圧されている独裁国家では、市民の政府を擁する国家群による制裁、独裁政権の失策・内紛、独裁者の死亡などによる体制の弱体化に応じて市民が蜂起するのを待つしか他に良い方法はないのでしょうか。

独裁国家が滅びることを望みますが、滅亡後に市民に実学を学ばせ独立心を植え付ける社会を提供する責任が滅亡させた国家群にあることを、ソ連崩壊後のロシアでロシア市民が困窮し独裁者プーチンを誕生させた史実を肝に銘じておく必要はあると思います。