1.はじめに
英国のEU離脱、トランプ大統領が進める一国行動主義、ヨーロッパ各国で台頭する民族ナショナリズムを見るとき、国という集団社会の正しい価値観の脆さを痛感します。集団社会、特に国の価値観は、国が危機に面したとき、混乱状態に陥ったときなど、野心家の影響を受けて間違った価値観になり、戦争に至ることさえあります。このような悲劇を阻止するためには、正しい価値観を持った国民が、協力して国の価値観が間違った方向に進むことを阻止しなければなりません。そのときにベースになる、正しい国の価値観とは何か、国の価値観は、どのようなときに、どのようにして変容されるか、正しい国の価値観を維持するために何が必要か、について考えてみました。
2.国の正しい価値観
国の正しい価値観の主要な項目は、主権在民、人権尊重、我が国のアイデンティティを明確にした国際協調主義、自衛軍保持ではないかと考えます。国の体制は資本主義が最善とは考えませんが、支配層が固定する可能性の高い社会主義等では、人間の性としてエゴと腐敗が起きるのは必然であり、国民の人権尊重が永続的には保証されないと考えます。主権在民で国の政治を行い、国民が共有する我が国のアイデンティティを大切にしながら国際協調して国際問題を解決するなかで、我が国の主権を侵害する国に誇りをもって対抗するために自衛軍を持つことは、現在の世界情勢から見て正しい国の価値観ではないでしょうか。
3.国の価値観は如何なるときに、如何にして変容されるか
(1)国が危機(外敵、内敵、経済的)に面したときに、ときの支配者層が変容。
例えば、日本の明治維新は、外国の脅威に対抗するために、徳川主権から天皇主権に移行し、国の価値観のベースとなる明治憲法を制定しました。しかし、国民は天皇の民とされ、権利や自由は法律の範囲内において保障されたが、不十分なものが多かったと思われます。
(2)戦勝国の価値観を敗戦国に導入
第2次世界大戦後に、天皇主権から人民主権に移行し、全国民が国の価値観の形成に参加できるようになったと考えます。苦い歴史も直視し正しい国の価値観形成に活かすという個人の価値観は正しいように思います。
(3)支配体制の抑圧に反発して被支配者層が変容
例えば、フランス革命では、財政危機に陥ったフランスにおいて市民や農民が中心になって王政を廃止し共和制を樹立しました。ナポレオン、毛沢東、スターリンのように革命家が独裁者に変身する例が多いことは、正しい国の価値観を維持するためには、不断の努力が必要であるとの警鐘でしょうか。
(4)煽動者、野心家が権力を得て変容
例えば、ヒットラーは、不景気に喘ぐ議会制民主主義のヴァイマル共和国で、社会経済的に低い階層の民衆の迷い、感情、恐れ、偏見、無知に訴えて権力を取得し、民主主義を一極集中独裁指導体制に変容しました。
(5)科学的、文化的な変化が起きたとき、その変化に対応して国民が変容
例えば、臓器移植技術の進歩により、脳死で臓器移植が可能になりました。命の尊厳に伴い死刑廃止の国が増加しました。社会的弱者の声を反映した多様性を尊重するなかで、LGBTの権利が尊重されました。生死観の変化に対応して一定条件下での安楽死が容認される可能性もあると考えます。
4.正しい国の価値観を維持するために何が必要か
(1)主権在民、人権尊重を求める以上、各国民が正しい自分の価値観を確立し、変容されようとする国の価値観に関する情報を取得して自ら考察し、変容の良否を判断して表明すべきではないかと考えます。少なくとも日本を良くしたいと考えている人々が、このような態度をとることによって日本が悪しき価値観に支配されることを防止できるのではないでしょうか。
(2)迷い、不安、無関心は、情報不足から生じる場合が多く、政策等に関する情報開示、マスコミの良識は、正しい国の価値観を確立・維持するための根幹と思います。
(3)権力の一局集中が国の価値観を悪しき方向に導くことは、歴史的に多くの事例が証明しているので、絶対に防がなければならないと考えます。
(4)国という集団社会の価値観を正しく維持するためには、各国民が正しい自分の価値観を持つことが必須であります。そのためには、自ら考える力や他人を思いやる心を身につけるとともに、教養、得意分野を延ばす若者教育がきわめて大切であることを、確固たる国の価値観として確立し、真に実行することが不可欠と考えます。
5.おわりに
昨今、国際情勢が複雑化するなかで、世界各地で起こっている出来事を見るとき、何が正しい国の価値観であるかを判断すること、正しい国の価値観を維持することの難しさを感じます。歴史上、国が悪しき価値観を持つに至った背景には、多くの国民の消極的な賛同、あるいな迷いが根底にあったとも言われています。このような歴史的教訓からも、正しい国の価値観を維持するためには、各人が自分の価値観を確立した上で、集団社会の価値観に従うことの安息観や目先の利益を求める欲を自制し、変容されようとする国の価値観について、自らの頭で考察して判断し、その見解を表明する必要があるように思います。多くの人々の自分の価値観が相互作用する多様性が正当性を見つけて収斂し、時代に合った正しい国の価値観を形成すると考えます。