スウェーデンの研究所によれば、民主的な国は60の国と地域であるのに対し、非民主的な国は119の国と地域に上り、ブラジル、インド、トルコ、ハンガリーなど権威主義的な傾向を強めている国の数が、民主化に向かう国の2倍以上あると報告しています。
「公正な選挙」「基本的人権の尊重」「言論の自由」「多様性」などを尊重する民主体制が、なぜ後退するのか考えてみました。
ヒトは生存するために集団をつくる本性を備えており、集団を作る本来の目的はメンバーの命と生活を守るためだと思います。
優れたリーダーに統率された集団は、メンバーの力を結束して有益な目標を達成し強い集団となり、多数の集団を統合して国をつくりました。
国が強くなるためには強いリーダーを擁する権威主義が有効であることは、国民が同じ方向を向き目的を効率的に達成することができるからだと思います。
しかし、純粋に国民の命と生活を守るための政治を行ったと言われる堯や舜は史記に登場する伝説上の帝王であり実在しないでしょう。
権威主義体制において体制と価値観を異にする人々の命と生活を担保し国力向上にも参画できる仕組みを作ることが一つの理想ではないでしょうか。
ところが権威主義体制では国力向上や国の威信が目的になり、その達成に熱心になり過ぎて全ての国民の命と生活を守るという本来の目的を忘れてしまいます。
また、権威主義は政治的な権力が一部の指導者に集中するので独善、不正、独裁体制誕生の温床になり、ひとたび独裁体制や独裁者が利己的あるいは独善的な自分の価値観を実現するための政治を始めると国民、特に体制と価値観を異にする国民は悲惨な状態に陥ってしまいます。
ヨーロッパにおいては19世紀に個人を国王などの束縛から解放し自由を実現させる自由主義的な改革がなされ、民主主義的な思想も取り入れられて現代民主主義国家が誕生したのに対し、ロシアではニコライ一世が自由主義的革命運動を抑圧して専制君主制を継続しました。
そして、ロシア皇帝は、皇帝の権力によって国民は繁栄と栄光に導かれるという専制主義をロシア国民に信じ込ませロシア大国を統治し続けました。
プーチン独裁者はロシア大国の復活という時代錯誤な独善的な自分の価値観を実現するためにウクライナに侵攻し、ウクライナ人の多数の命と生活を奪うという暴挙を続けています。
ゼレンスキー政権はウクライナ国民の命を守り日常生活を奪還するために28万人弱のロシア兵の命を奪っていますが、国民の命と生活を守るという国の目的を達成するための行為として認められています。
国民が人権、言論、多様性を尊重し、国家権力がその国民によって選出される民主主義は、一部の指導者に国家権力が集中し、国民がそれに盲従する権威主義より国の力や威信高揚の面では効率が悪くなるでしょう。
しかし、ヒトが仲間の命と生活を守るという目的を達成するために集団を作ったという原点に立ち返って考えると、民主主義は、国民が各自の思いを実現する場を確保するという国が果たすべき本来の目的を達成するベターな体制だと思います。
国民の命と生活が確実に守られた状態で、国民が個性を発揮し楽しく生きることで国の力や威信が高められる民主的な国の数が増えることを願っています。
我国は、経済格差の拡大を阻止しつつ国力を増大する経済財政改革、国民のために活動する政治家を選出するための金のかからない選挙制度改革、政治への関心が高く個性豊かな才能を育てる教育改革など民主主義の弱点を是正する施策を果敢に実施し、新しい民主制の豊かな日本を世界に示していきたいものです。